とある歴クラ見習い審神者の備忘録

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日本刀アンケート(続仮集計):所持に対するハードル

以前行ったアンケートの自由記述分析にようやくがっつり取り組み始めました。
ということで、以前公開した概要部分はこちら。
waterseed.hatenablog.com


上記の記事内にもありますが、このアンケートは、「刀剣乱舞ファン層に向けて実際の刀に関する発信を行っている」筆者が、同様の属性を持つ相手に情報が届きやすいTwitterを通じて行ったものです。
アンケート回答者は、「刀剣乱舞プレイヤーかつ、実際の刀にも興味を持っている層」が主軸となりますし、実際に他の設問の回答結果からもそれが伺えます。
アンケート実施前には、「刀剣乱舞プレイヤーかつ、作品に登場する刀剣のみ興味がある層」「刀剣乱舞プレイヤーかつ、作品に登場する刀剣以外にも興味を持った層」それぞれが来ると想定していましたが、設問の難易度からか、実際には後者がほとんどとなっています。

もちろん、刀に興味があるといっても、その興味の持ち方には、鑑賞、歴史や物語、ものづくり、武術などいろいろな方向があります。
それによっては実物の所持には魅力を感じない方だっています。
けれど、それを差し引いたとしても、刀剣の購入に至るまではあきらかに金銭面以外にもハードルがある、何が阻害要因なのかを自由記述欄から見てみよう、というのがここでの趣旨です。


Q:あなたは日本刀を所持したことがありますか(ここでは摸造刀や小刀を含まず、登録証を要するものを指しています)

  • 考えたこともない: 51.1% 877件
  • 所持(購入、注文、譲受)を検討中である: 20.2% 346件
  • 所持を検討したことがあるがとりやめた/所持していたが手放した: 14.7% 253件
  • 現に所持している: 4.8% 83件
  • 自由記入:157件

(回答数1,716件)

誤って設けてしまった自由記入欄について、筆者が目視で再分類を行いました。
※どのようなものをどこに割り振ったのかは、PDF版作成時に公開します。また、配置誤りがあった場合にはその時訂正する可能性があります。

  • 考えたこともない: 51.2% 879件
  • 所持(購入、注文、譲受)を検討中である: 23.6% 405件
  • 所持を検討したことがあるがとりやめた/所持していたが手放した: 18.5% 319件
  • 現に所持している: 5.0% 87件
  • 家族・親戚が所持: 1.2% 21件
  • その他:5件

(回答数1,716件)

Q:所持を検討したがとりやめたことがある方はよろしければ理由を教えてください。(なお、具体的な店名などが記載された場合、結果公表時には店名を伏せます)

自由記述回答 回答数239件。日本刀所持状況の自由記述欄に、この項に該当する記入も多いため、そちらもあわせて分類しました。
当初は、前項目で「所持を検討したが取りやめた/手放した」を選択した方のみ分析予定でしたが、それ以外を選択された方でご記入いただいた方も多数ありましたので、絞らずに分類しています。

分類は、回答に対して「保管・手入れなどの管理に関すること」「自分が飽きた/死んだ後のこと」「周囲の反応に関すること」「お金に関すること」「その他」のどれに該当するかをマーキングしました。
また、一つの回答が上記分類の複数に関わる場合には、該当する全ての分類にマークを行いました。

  • 保管・手入れなど維持管理に関すること: 203件
  • 自分が飽きた/死んだ後のこと: 38件
  • 周囲の反応に関すること: 20件
  • お金に関すること: 72件
  • その他: 59件

圧倒的に多いのは、保管に不安がある、手入れ方法がわからないという維持管理に関する内容です。
調べた上で自分には向かない、という方もいらっしゃいますが、まったくわからないので出来そうもない、なんとなくたいへんそうというイメージでおっしゃっている方が多い印象です。
また、お金に関することとしてまとめた中にも、購入自体が困難という方だけでなく、維持管理にいくらかかるかわからないという内容が多数あります。


繰り返しますが、このアンケートの回答者は、「実際の刀剣に興味を持つ層」がベースです。
その層がこれだけ「知らない」なら、一般層はもっと「知らない」でしょう。
将来的に、今回のブーム以外から興味を持った層が出てきたとしても遭遇するハードルであると考えます。
関連業界は、ここの部分に関してはPRを増やしたほうがよいのではないかと思います。

その他の中には、店で失礼な扱いを受けた、という類いが5件ありました。(うち1件は男性の回答です)
周囲で刀剣を買った方々からよく聞く話ですので、もっと多くなるかと思いましたが、実際にはそこにいきつく前にハードルがある状態です。
また、別途まとめますが、従来の愛刀家層から女性蔑視的な言動を受けた、セクハラ・パワハラを受けたという内容も、これ以降の設問であがっています。
「知らない店に行きづらい」「職人さんに話しづらい」という裏には、そういう事情も一定量あると思われます。

また、その他の中や、別途設けた「質問したいこと」の項目には、銃刀法に関連するものもありましたが、銃と同程度の、実際には刀剣に対しては求められない物を想定していると思われる内容が見受けられました。
ここも、業界側から発信したほうがよい部分かと思います。


では具体的な回答を分類ごとに紹介していきます。
ブログに全てテキストで貼るとかなりだらだらとしてしまうので、画像貼り付けです。
(また後日、PDF版を作るつもりです)

「維持管理」のみ 131件

※画像のキャプチャ取ったとき、間違えてカウントしていました。画像なおす余裕なかったのでそのままで…
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「維持管理」と「自分の次代の問題」19件

内、「周囲の反応」含むもの1件、「金銭面」含むもの3件、「その他」含むもの1件
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「維持管理」と「周囲の反応」5件 ※ここまでに上げたものを除く

内、「金銭面」「その他」を含むもの1件
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「維持管理」と「金銭面」33件 ※ここまでに上げたものを除く

内、「その他」を含むもの1件
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「維持管理」と「その他」15件 ※ここまでに上げたものを除く

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「自分の次代の問題」19件 ※ここまでに上げたものを除く

内、「周囲の反応」含むもの3件
※画像のキャプチャ取ったとき、間違えてカウントしていました。画像なおす余裕なかったのでそのままで…
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「周囲の反応」11件 ※ここまでに上げたものを除く

内、「金銭面」含むもの2件、「その他」を含むもの1件
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「金銭面」33件 ※ここまでに上げたものを除く

内、「その他」を含むもの4件
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「その他」 35件 ※ここまでに上げたものを除く

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Q:刀を所持するということで疑問に思うこと、不安に思うこと、既に所持済みの方は他の日本刀オーナーさんに聞いてみたいことがあれば教えてください

自由記述回答 有効回答数302件。※「なし」「ありません」の回答は記入なしと同じ扱い
分類は、回答に対して「保管・手入れなどの管理に関すること」「自分が飽きた/死んだ後のこと」「店・職人・相談窓口に関すること」「お金に関すること」「その他」のどれに該当するかをマーキングしました。
また、一つの回答が上記分類の複数に関わる場合には、該当する全ての分類にマークを行いました。

この項は、予備調査を目的として設けたものですが、先の「所持までのハードル」部分に未回答の方がこちらには記入してくださったものもあるため、同じように整理して公開します。

  • 保管・手入れなど維持管理に関すること: 214件
  • 自分が飽きた/死んだ後のこと:54件
  • 店・職人・相談窓口に関すること: 47件
  • お金に関すること: 48件
  • その他: 50件
「維持管理」のみ 142件

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「維持管理」と「自分の次代の問題」27件

※1件重複回答と思われるものあり。PDF版作成時には除く予定。
内、「店・職人」「金銭面」「その他」を含むもの1件、「金銭面」含むもの3件、「その他」を含むもの1件
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「維持管理」と「店・職人」16件

内、「金銭面」「その他」を含むもの2件、「金銭面」を含むもの4件
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「維持管理」と「その他」10件

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「自分の次代の問題」27件

内、「店・職人」「その他」を含むもの1件、「その他」を含むもの1件
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「店・職人」30件

内、「金銭面」「その他」を含むもの2件、「金銭面」を含むもの4件、「その他」を含むもの1件
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「金銭面」6件

内、「その他」を含むもの1件
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「その他」26件

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予備調査のための項ではありますが、筆者で答えられる部分に関しては回答させていただきたいと思います。
(なお筆者は、自身は刀剣未所持、周囲から話を聞いているというステータスです)
一応、今回よく上がっていた疑問部分について、知りたいけど周囲に聞ける相手がいないわという方に、一番まとまっている本は「写真で覚える日本刀の基礎知識 」です。
手入れの仕方、必要な届け出の話、海外に持ち出す場合の話なども一通り載っています。
このあたりでイメージをつかみつつ、もし本当に買うとなったらお店の方に教えてもらえばよいのではないかと。

【書籍】写真で覚える 日本刀の基礎知識 [テレビせとうちクリエイト]

【書籍】写真で覚える日本刀の基礎知識2 [テレビせとうちクリエイト]


まず誤解の多い銃刀法。
銃の場合は「所持する許可を人が得なければいけない」ものですが、刀剣の場合は「刀を登録し、今の持ち主を記録する」だけのもので、所有に許可の類いは不要です。当然、不適格事項などもありません。
流通している刀には、必ず登録証が付属しています。(ないと売買・譲渡できません)
所持者の変更は、刀剣の登録証を作成した都道府県の教育委員会に対して行います。郵送で行うところと、Web申請が可能なところがあります。また、この手続きは、購入した店が代行してくれる場合もあります。
警察が登場するのは、登録証がない刀剣が自宅から発見された場合です。この場合は警察に発見届を出した後、県の教育委員会に登録をお願いする形になります。残念ながら警察が不適切な言動を行う例も散見されますので、詳しい方に相談しつつ届けたほうがよいでしょう。

海外に刀を持っていく場合、輸出許可を取る必要があります。
刀屋さんなどで解説がありますので、気になる方はご覧になってください。
またその場合、登録証は返納することになります。
逆に、海外にあった刀を日本に持ち込む時には、新たに登録が必要になります。

コス撮影の模造刀の話はコスコミュニティのほうがいいと思いますが……金属製模造刀を公の場で抜刀するのは原則NGです。
ロケで抜刀したいなら、一般の方が入ってこない&一般の方に見られない囲われた場所で。
また、金属製模造刀の運搬も、適切な目的無しだとNGとなるのですが、写真撮影を適切な目的として認めるかどうかは地域によって警察の判断が分かれます。

刀の保管・鑑賞は、普段は湿度管理がしやすいケース類に保管し、鑑賞の時だけ外に出して油を拭い、鑑賞が終わったらまた油を塗って収納するというのが一般的かと思います。
ケースとして聞くのが、桐箱(着物用でもよいが、着物用虫除けは錆の原因になるのでNG)や、衣装ケース+湿気取り剤ですね。他の例も聞いてみたいですが。
一般には上記のとおりと言いつつ、家庭用の展示ケース(鍵付き)というようなものを作っていらっしゃる方もいます。
刀とくらす。日本文化をより身近に。 | 刀箱師 katana case shi

お手入れは、古い油を拭い去って、新しい油をつけるのが基本です。
年1回前後必要となりますが、上で書いたとおり、鑑賞の際には必ず行うことになりますので、鑑賞した場合にはプラスアルファで何かしなければということはありません。
油を拭う行程で何を使うか、新しく塗る油をどんなものにするのか、にはそれぞれいくつかの選択肢があります。
前に一度記事にしたことがありますので、気になる方はどうぞ。
創作メモとしての刀の手入れ方法 - とある歴クラ見習い審神者の備忘録
実際の手入れ風景は、こんな感じになります。
www.youtube.com
www.youtube.com
お手入れを教えてもらえる場はまだあまり多くない印象ですが、美術館・博物館などの講座や、有料講座を開かれている刀匠さんなどがいらっしゃいます。

状態のよい刀の場合、一人のオーナーの元にある間に一度も研ぎを行わないというのも普通にありえます。
旧大名家所蔵の刀などは、古い研ぎにも価値があるということで、江戸時代から研いでいないものなどもあります。
剣舞の方で研ぎの頻度を心配されてた方がいらっしゃったんですが…剣舞って試斬とか打ち合いとかしないですよね…?であればそこまで発生するものでもないと思いますが……)

ペットがいることで、刀の所持に不安を持っていらっしゃる方もいらっしゃるようですが、室内犬や猫を飼っていて刀をお持ちの方々もいらっしゃいます。
また、猫を飼っていらっしゃる刀剣関連職人さんたちも多数いらっしゃいます。

刀剣店については、既に刀剣を所持している方々は、他の方からの口コミなどで女性や若年者だからと邪険にしないお店情報を交換していたりするようです。
あまりオープンにするのは不適切、として教えてもらったので、私も具体的にどこがいいのかというのは書けません。
聞くあてがなく、直接店に行くのは不安だという場合には、刀剣市の類いに二日目以降に行くことをおすすめします。
多数のお店がブースを出しているので、対応がよくなかったら次、という感じで、変な対応をしない店を探す感じで。
(初日はガチなお取引が多いようなので、開催期間の後のほうが丁寧な応対が期待できます)
一応私も行ったことがありますが、普通にいろいろ見せていただきました。
「刀身の前でしゃべらない」「ふりまわさない」「お店の人の注意事項は聞く」
これだけ守れば怖くないです。別に押し売りとかされません。
刀剣書籍なども並んでいることがあるので、おもしろいですよ。

始めに所持する刀については、脇指が勧められることが多いですね。
短いと取り回しがしやすいことに加えて、打刀以上になるとお値段がぐっと上がること、短刀は筋力が弱ったおじいさま方の需要があって値が上がりがちなので、同じ予算だと脇指のほうが比較的よいものが候補に入れられるためと聞いています。

あと、かならずしも、刀をずっと持ち続ける必要はありません。
従来の愛刀家も、作品を充分楽しんだらお店に下取りに出して次の作品を購入する、というような楽しみ方をしています。
家の守刀にするというのももちろんありですが、人生の数年を共に過ごすというのも同じくありです。
刀を手放すときには、買ったお店に持っていくというのをよく聞きます。
刀袋に刀剣商の名刺を結わえておくことで、本人が亡くなったあとお店に電話が行って…というような話も聞きます。

注文打ちをお願いする場合には、職人さんによって得意とする作風が異なりますので、自分がほしいものがどういうものなのかによって、どなたにお願いするのがよいかが変わってきます。
現代刀の展示やコンクールなどの展示でどんな方がいらっしゃるのか確認したり、実演系の場でお話を伺ったり、というのが従来的なルートかと思います。
展示だと、全日本刀匠会の「お守り刀展覧会」や日本美術刀剣保存協会の「現代刀職展」、職人さんの実演だと、備前長船刀剣博物館や関鍛冶伝承館、熱田の奉納鍛錬等々。(おそらく他にも色々あると思います)
最近はTwitterをされている職人さんたちも多いです。

お値段については、刀鍛冶の金田國真氏がご自身のブログ内で目安を公開されています。
刀鍛冶 | 金田國真鍛刀場 | 日本刀製作
もちろん職人さんによる差はありますし、ベテランの方にお願いしようとするとさらに金額はあがります。

刀を縁起の悪いものとして扱うのは、どこから出てきた話やら…
むしろ本来は魔除け等、縁起のよいものです。
剣でもって難を払ったためにその剣をご神体にして、多数の刀剣が奉納されてきた神社とかあるのですよ。
熱田神宮について | 初えびす 七五三 お宮参り お祓い 名古屋 | 熱田神宮
また、刀剣類は、武家における贈答品の第一でした。
結納にも、嫁入り道具にも、刀剣類は登場するのですよ。

結婚の贈り物タブーも、今変遷を調べていますが、明治や大正のマナー本では「刃物NG」は出てきません。
上流階級においては重要な贈答品、一般階級においてはそんな言及は出てこない、つまり「刃物は縁を切るに通じるから贈り物として不適切」というのは決して「昔からのしきたり」ではありません。

刀剣愛好会については、もちろんジェントルな方々の会もありますが、セクハラ発言や痴漢行為を当然のように行う方々のいる会の話も耳にします。
とはいえ、体験や見学レベルのときにはあまりそういう話は聞かないので、近くに会があれば、一度体験講座か見学に行って、既に参加している女性会員から話を聞くというのが無難かと思います。