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村正の妖刀伝説の話

「徳川に祟る」ため「すべて捨てろと家康が言った」とされる「妖刀」村正。
でもこの話を思い切り否定しにかかっているのが徳川美術館さんです。
なぜなら所蔵品の中に「家康から遺産として受け継いだ村正」があるから。

で、その徳川美術館で去年、村正についての研究発表が行われたのですが、その論文がとうとう一般公開されました。
ということで、他にもネットで見れる資料類と合わせての紹介です。

自分の好みに合わせてだらだらだらっと続きますが、忙しい方は徳美の論文だけ読んでください。


まずは徳川美術館 原史彦学芸員による論文『「刀 銘 村正」の伝来と妖刀村正伝説』
金鯱叢書第45輯(平成29年度)の収録で、徳川美術館のサイトからダウンロードできます。
金鯱叢書 | 出版・刊行物 | 調査・研究・教育 | 名古屋・徳川美術館
pdfの37ページから67ページが該当部分です。
(同じファイルの中にある『尾張徳川家における世襲財産附属物』という論文には明治初期における尾張家の目録が掲載されていて刀の保管状況もわかるので、気になる方はそちらもどうぞ)

元になった発表、みほとせの余韻が抜けない頃にでじさんが「気になる講演がある」みたいに情報つぶやいたおかげで平日にも関わらず講堂がいっぱいになって、補助椅子まで出すはめになって、学芸員さんがひきつった声になるとかいう珍事もありました。
普段は50人地度、多くても70人程度しか来ないのだとか。あの講堂普段の講座で120人くらいが定員なのでざっと倍くらい来たんですかね…

さっくり紹介すると、村正伝説と呼ばれるものの整理と、一般庶民における村正の認識、更にはなぜそんな伝説が生まれたのかという仮説を示したものです。
末尾に、それぞれの文献の原文抜粋も載っています。

  1. 家康の祖父殺害に使われた刀が村正である
  2. 家康の父殺害に使われた刀が村正である
  3. 家康の嫡男、信康の切腹介錯に使われた刀が村正である
  4. 家康の幼少時、誤って手を傷つけた小刀が村正である
  5. 関ケ原時、誤って手を傷つけた槍が村正である

村正伝説の主体になるのは以上の逸話なのですが、「記録によっては死んでないよ」という話とかとても面白いと思うのです。
特にこの論文、信康事件にかかわる記述の解説にとても力が入っています。

論文内で紹介されている川柳「吉光と村正反りが合ぬなり」、読んで意味を理解してくすりと笑える方、今は決して少なくないと思います。
原先生が、以前なら説明が大変だった、とおっしゃっていたんですよね。
…確かに、以前なら「最高級の贈答品として重宝された刀」と言われてもぴんとこなかった気がするのです。

他に村正にまつわる伝説の類として2件、田中重義改易事件と、松平外記事件が簡単に紹介されています。
たぶん逸話本にピックアップされるような主要話はこれで大体カバーできるのではないでしょうか。
論文の内容は、決して難しくないのでぜひ一度読んでいただきたいところ…。

あと、一般からの認識の話で歌舞伎がいくつか紹介されてるんですが…そういうの見かけるとあらすじだけじゃなくて実際どんなものなのか詳しく知りたくなりません…?
日本戯曲全集. 第六卷 靑樓詞合鏡 84-129コマ
これは刀が村正のバージョンとそうでないバージョンがあるそうですが、これはどっちだろう?(まだ読んでない)
あと、ニコニコ歌舞伎の演題でこれに近いのありましたけど、ベースこれだったのかしら??

網模様燈籠菊桐・八幡祭小望月賑・三題噺高座新作 八幡祭小望月賑 10コマ-18コマ
演劇脚本. 第6冊 八幡祭小望月賑 4コマ-12コマ
脱線ですが、同じシリーズの第二冊に「粟田口鑑定折紙」とかいうタイトルも見つけてしまったので、ちょっと気になるところ…

籠釣瓶花街酔醒
こっちは錦絵もあります。籠釣瓶花街酔醒 錦絵


論文がらみの話はここまでにしておいて…
個人的には、幕末期、宮様含めた東征軍が村正を帯びたことによって、根も葉もないうわさ話であった伝説が、ある意味成立したと言えることに心を揺さぶられますね。


とはいえ、そこはまあ、常識的といえば常識的な逸話の拡大だと思うのですよ。

英雄と佩刀 こちらの40コマからの話『村正を佩た英雄』をご覧いただきたく…
(一応書いておきますが、歴史認識に史料性の低いものがまざっていた頃の本なので、他の項も含めてただの読み物として取り扱ってください)
戦国期に村正を持っていた武将の話はまあ軍記由来だと思うんです。(真田幸村が持った云々も、史料性の低い逸話由来だったはず)
問題はその後。
文久二年のことだといううわさ話が増えている…w
見るからに風説の類だとは思うんですけどなんですかこれ…。
(人物についての説明があまりないけれど、この本が書かれた頃ならぴんとくる人物名だったんでしょうか…)

あと、レファレンス協同データベースあさってたら北海道のほうにも何か怪しいうわさ話的なものあるみたいなんですよ。
『北海道いがいいがい物語』(合田一道 著 幻洋社 1990 p97-100)内にある「妖刀・村正の怪異」について記述のある資料を知りたい。

何ですかこの妙な広がり方。
ゲーム中の台詞「伝説を増やしにいきましょうか」が本気でシャレにならないですよ…

更に本を読んでいたらネタがありましてね…

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