とある歴クラ見習い審神者の備忘録

調べたこと・面白かったものと、自分が調べるときにあったら便利だったなと思うまとめを置いておく場所

男色と丁子油

今回はセクシャルな話題ですので、苦手な方はお引き取りください。

はてなさんは規約でアダルトNGなので、事前に運営さんに問い合わせを行いました。

今回の記事はその範疇に収まるものと考えて書いていますが、万が一問題があれば文章修正ないし取り下げの意思はありますので、運営さんいきなりBANはおやめくださいまし…

 

 まず文献紹介から。

今回紹介する本はいずれも「学術扱いだから黒塗りされない」やつです。

春画が多数掲載されていますので、同居家族がいる方は購入するのにちょっと考えたほうがよいかもしれません。

(この記事を読みにくる方相手なら今更かな?)

 

男色の日本史――なぜ世界有数の同性愛文化が栄えたのか ゲイリー・P・リュープ著 藤田 真利子訳

今回のメイン資料です。巻末にある松原國師氏の解説から引用すると「日本男性同性愛史に関する世界で初めての本格的にして包括的な研究書」だとのこと。しかも「これまで我が国には男性同性愛の通史とも呼べるものが無かったのである」とのこと。

 というわけで、間違いなくガチな本でございます。

(論の不足部分なんかもあるようですが、巻末で解説者さんが補ってくれています)

寺院や戦場には女がいないために少年が性の対象となったという話までは知っていましたし、江戸時代に男性が売春をする陰間茶屋があったことも知っていましたが、男性にも手を出すことがそこまで一般的だったとはこの本を読むまで知りませんでした。

 

江戸の色道: 古川柳から覗く男色の世界 (新潮選書) 渡辺 信一郎 (著)

新潮選書 江戸の閨房術 渡辺 信一郎 (著)

江戸の性愛術 (新潮選書)  渡辺 信一郎 (著)

選書を専門書扱いするかどうかはともかく、至ってまじめなレーベルでございます。ついでに上2冊は男色の日本史巻末で関連文献として紹介されてます。

最後の1冊だけアマゾンさんに18禁扱いされてるんですが、どれも程度的には似たようなものです。真面目な春画展でもR18として開催されることを思えばわからなくもないですが…

表紙を見たら真面目系な本なのわかってもらえるかしら?

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これらを一言でいうと、江戸時代の性指南書を淡々と解説した本です。率直な感想を言うと、あからさますぎてエロさを逆に感じないレベル。

ハウツーものの訳ということで、当時どの程度信頼性をもって受け止められた話なのかとか、疑問を挟む余地がないわけではないですが、「実態として行っていた」かはともかく「そのような認識があった」という資料にはなるかと思います。

 

えー、こんなテーマ書こうと思ったきっかけですが…創作物の中で、男性間の性行為に丁子油が使われている描写を見かけましてね…。

で、丁子油の正体を追うようなホームページの記事の中で、クローブ精油との混合物orクローブを浸出させた油だよね、という内容を思い出し、さらには精油の類って肌に使っていいものと悪いものがあったよなと思い至りまして。

調べたら、「肌への使用は刺激が強いため不向き」と書いてあるサイトに最初に行きついたんですよね…そんなもの粘膜に使って大丈夫なのかと。

(後から、「刺激が強いから通常のアロマの半分の濃度で試せ」というようなサイトも複数見つけましたが)

 丁子油についてのサイトは個人サイトなのでこんな記事からリンクを貼るのがはばかられます。間接的ですが、過去記事の 真ん中あたりでリンクを貼っていますので、気になる方はそちらから飛んでください。

 アロマとしてのクローブは、最終的にこちらのサイトを参考にしましたが、内容の妥当性については判断できませんのでよろしくおねがいします。

【医師監修】クローブの効果・特徴と使い方 |アロマオイル・精油・エッセンシャルオイル辞典 | スキンケア大学

 

 とりあえず所感としてですが

  • リアルで真似るべきではない
  • 昔「そういう場面で使う」と認識されていたことは間違いなさそう
  • 使うことにそれなりの合理性はありそう
  • 参考資料中では潤滑に違う物使ってる例のほうが多い
  • もっと刺激強そうなものも使ってるから問題視してなさそう

という感じでした。

 

 

 とりあえず順番にいきますね。

  • リアルで真似るべきではない

当たり前のことではありますけど一応。

「昔から使われている」のだとしても、先に書いた丁子油についてのサイトにありましたが、かつての丁子油と今の丁子油が同じものである保証はありません。

成分を公開しているほうの製品も、「混合比は1:9」とのことなので、アロマ用濃度の、体なら通常1%以下・顔なら0.5%以下だがクローブはその半分からを推奨、というのと比べるとね…

 (もちろん、創作の中でならどんどんやったらいいと思います)

 

  • 昔「そういう場面で使う」と認識されていたことは間違いなさそう

 この手の話をすると必ず出てくる資料に『稚児の草紙』というのがありまして、今回の本の中でも『男色の日本史』『江戸の色道』で取り上げられています。

僧侶と稚児の性行為を描いた絵巻物で、鎌倉時代に書写されたものです。

この中に、事前の準備として「丁子油を肛門に塗り込む」場面が出てきます。

きわどい挿絵の部分なしで内容を紹介しているサイトを見つけたのでリンクをはっておきます。男色の日本史内での訳とはニュアンスが違いますが、私にはこっちのほうがしっくりくるかも。

読下し「稚児之草子」

稚児之草子(現代語訳) | 鳩町通り3番地

 

  • 使うことにそれなりの合理性はありそう

主にアロマの効用を見ての感想です。

鎮痛作用、(精神面での)高揚特性、抗菌、抗真菌、消毒作用が上がっているので、これよさそうじゃない?と。

ついでに強い香りがありますので、臭いをごまかすのにもよさそうです。(今と違って十分な洗浄もできないでしょうし…)

ちょっと気になった内容だと、前述のところではなく参考元にするのにはちょっと微妙なサイトにですが「創傷の改善」という効能がありました。どういう意味の改善でしょう…消毒の結果改善するならいいけど、血止め系だと収縮してかえってしんどそうだし…。

『江戸の閨房術』の中で登場する、対女性用媚薬(塗布するタイプ)のレシピにも、油なのか蕾のほうなのかはわかりませんが、丁子が登場しています。

 

  • 参考資料中では潤滑に違う物使ってる例のほうが多い

 今回用意した資料が偏っているのはまあ間違いないのですが…あんまり油系使ってなさそうに見えるんです。

とりあえず、『江戸の色道』中において男性間の性行為中ないし事前の拡張に利用していることが書いてある物品を上げていきますね。

・胆礬(青色の硫酸銅)をごま油で溶いたもの

・油薬

・ふのり系の潤滑剤(いちぶのり、安入散、海蘿丸)

・とろろあおい系の潤滑剤(通和散、ねりぎ、高野糊)

・つば

…なんか変なものが最初から入っていますね??

とはいえ潤滑成分は油の部分だと思われます。

で、油な2件はそれぞれ1回ずつしか出てきてないものの、下の潤滑剤やつばを使う話は複数回出てきているんですよね。

なので印象だけで見ると、油よりも専用の潤滑剤を使うほうが便利なのかなと。

広く資料を集めていないので、本当に印象だけですが。

 

  • もっと刺激強そうなものも使ってるから問題視してなさそう

読んでると「???」となるものも登場してきます。

・山椒の粉を唾で練ったもの

・胆礬(青色の硫酸銅)をごま油で溶いたもの

 山椒の話は今回、『男色の日本史』『江戸の閨房術』『江戸の色道』ですべて別の出典が紹介されています。初交ないし不慣れな若衆に対して用いると、かゆみを性感としてとらえるために痛みが出ずにすむからと。

ついでに『江戸の閨房術』の媚薬レシピにも山椒が登場します。自家品を使っているところを描いた春画も紹介されていまして、詞書には、山椒を効かせすぎると後までひりひりするという内容が…。他にいろいろ混ぜた状態でそれなら、山椒だけの状態は悲惨そうな気がするのですが…。

とはいえ、山椒はまだいいんですよ。問題は胆礬。こちらは、お商売の男の子を仕立てるための訓練方法の中で出てきました。

胆礬をぐぐってもらうと鉱物愛好家の方のサイトが多数出てきますが、毒性があるから気をつけろという内容が…

信頼性の高そうなサイトでは外用時における毒性の具体的な内容はわからなかったのですが、かぶれ・ただれを引き起こすようなことが書いてあるところもありました。(不安をあおるタイプのサイトであったため、情報の真偽は不明です。)ということはこれも「かゆみを性感とする」ことを狙っているのかもしれないですね。

そういえば、『江戸の閨房術』中、女性用としての紹介でしたが、肥後ずいきも痒みを性感とする道具として出ていました。安全性は段違いですが…。

丁子油も、すこしばかり刺激が強いとしても問題にならなさそうな気がします。

 

主題からはすこし外れるのですけど、性具の歴史系も追いかけるとなかなか面白そうだなと今回の資料類を見ていて思いました。

少なくとも、稚児の草紙の時点で「張形」が登場しているんですよ。

で、江戸時代の本には、吾妻形やら胴形・鎧形・兜形(サポート具)やら、形さえ作ってしまえばどうにかなる類のものは一通りそろっている感が…。

一時twitterで話題になっていた、真桑瓜を吾妻形にする方法の話も『江戸の閨房術』に出てきています。前読んだときには見落としていましたよ…。でも食べ物を無駄にするのもあれなので、創作で使うなら刀の柄袋を利用する方法のほうが抵抗が少なそうな。

真偽は怪しいと思うんですが、文中で紹介されている江戸時代の本の記述で、ヤマトタケルが妻を失って「吾妻はや」と言ったのが吾妻形の名の由来みたいな話も出てきて、おおうとなりましたね。よりにもよってそこを結びつける?と。

 

ということで、真面目に不真面目な話でした。

 

2021/02/24追記

コメントに、「胆礬の使用理由は腐食で痛みを鈍くさせるため」という内容をいただきました。

おそらくその記述がある本、私も読みました。ただし、どこからその内容を導き出したのか不明な本だと思ったため、どうなんだろうと思っております。

(本の属性としても、私の記事と同じく、専門書を読んで一般書にかみ砕くラインのもの、と判断したためというのもあります)

こう、一時的なかぶれならともかく、ひどい炎症レベルになっちゃうと返って触ったら痛むようになるでしょう??

 

あと、前回諸々書いたときに、そんな刺激の強いものばっかり……と思ってたら、男女の話ですが、色道禁秘抄という天保の頃の本に、性感剤の類いは男女ともに陰部がかぶれる元だから使わない方がいいという内容が…。そりゃあ刺激物ばっかりなんだからそうだよなあと。(浮世絵グラフィック3 色道禁秘抄後編 にて確認)

 

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