「浅く広く」な刀剣入門本おすすめ
どのジャンルでも、初心者向けっぽい本ほど初心者が選ぶのが難しい現象ってどうにかならないものですかね。
刀剣、ブームになった分、初心者向けの本に見える粗製本が多いんですよね。詳しい方々から「むしろ害になる」とまで言われるような類の…
(安く買える雑誌形式のものは地雷率高めですね。もちろん当たりもありますが…)
だからといって、きちんとしたところの本なら完全に信じていいかというと、そういうわけでもなくてですね…
刀剣の初心者本で扱う範囲というのはあまりにも広すぎて、専門家の方が書いている本であっても時折「それ旧説じゃないっけ」とか「別の論のほうが主流じゃないっけ」というのが出てくるような状態なのです。
刀剣乱舞に初期から実装されている刀が49口でしたっけ?その中から手持ちの主要刀工表にある刀工さんをカウントすると20くらいになるんですが(雑にカウントしてるので正確じゃないし、もちろん元にする表によっても変わるとおもいますが)、その主要刀工の表、ざっくり計算しても150人くらいは載ってるんですよね…
とうらぶ実装刀だけでも沼が深すぎてクラスタ間に断絶がある状態だというのに、更に何倍もですよ。
更に日本史が平安から幕末までと、個別の刀の伝来の話と、文学作品と。なんなら作刀がらみの科学に、武術系(こちらも流派ごとに全く別物)…
全部完璧にというのが無理な話なのはお分かりいただけるかと思います。
(歴史にしろ刀剣研究にしろ、案外新しい研究成果って多いですし)
もちろん私も、深く調べていない箇所については、入門本レベルにとどまっています。
浅く広くな本は知識ベースとして、でも信じすぎずに使うのがよいかと思います。
「浅く広く」で私がいちばんおすすめなのはこれ。学研の歴史系図説シリーズの刀剣本です。監修は京都国立博物館名誉館長の稲田和彦氏。実際の執筆陣に歴史研究家、刀剣史研究家、刀剣商兼研究家・写真家、武術研究家、軍事研究家、学芸員、工芸史家と、該当する各ジャンルの専門家をつれてきています。
第一刷が2006年、2007年ということで、最近出た本でもよく参考資料として使われているのを見かけます。
刀剣乱舞実装刀の写真は2のほうに多いですね。
(細かく見ると「?」もあるものの、「なんとなく読んで楽しい」レベルの本の中では精度がかなり高いほうだと思います)
本屋に在庫が残っていたり、古本屋で安く出ていたらおすすめできるのがこれ。
なんと、定価が1000円を切っています。そんな価格なのにおすすめできるクオリティなのは、先に紹介した「図説 日本刀大全」2冊分から抜き出した本だからです。
読み物部分などはカットされていたりしますが、写真はおおむね掲載されていたかと思います。(本屋で見て、合本だとわかったところで購入せずにきたので詳細までは書けませんが)
刀剣専門新聞「刀剣春秋」の編集部による入門本です。エピソード系多め。
刀剣作品自体に対する解説や、美術館の紹介については流石という感じがあります。
ただ、歴史関連については、少し俗説によりすぎているように思います。一応「ようだ」とか「らしい」のような語調で断定系にはなっていないものが多いですが…
刀剣鑑賞知識+世間で知られている刀剣エピソード集(ただし歴史研究の結果否定されたものも含む)と分かって読むならとてもいい本だと思います。
日本刀の科学 武器としての合理性と機能美に科学で迫る (サイエンス・アイ新書)
初心者向けの浅くて広い本とはちょっと違うのですが、一般的な入門書の文章を読んで「?」となる方におすすめします。
この本の話のメインは、日本刀を「使う」場面を想定した力学的な解説です。
前段として、日本刀にかかわる基礎的な事柄を、理系説明文の体裁で説明していますので、人によってはこちらのほうがしっくりくるかもしれません。
サブタイトル違いの別著者の本がありますので、注文で購入する場合、著者名「臺丸谷政志」をチェックしてください。
(202004追記)
その後、他にもいい本が出てきましたので追加で紹介。
他の入門本と重複しないように、というコンセプト、かつ現役の学芸員さんがメイン著者のおひとりという信頼性高めな本。写真もこのために撮り下ろしたものがあり、とてもきれいです。
文体も比較的読みやすいです。
文章にとっつきづらさがあるので、「楽しむ」のが主目的の方にはあまり勧めません。
でも「学ぶ」のが目的の人にはこれが一番おすすめです。これ一冊押さえておけば、難しい講演や専門書も、とりあえずは何の話題なのかついていけるくらいのベースができかと思います。